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30人近い生徒はほとんどが英語講習の教室を退出し、
携帯電話を弄ったり、テキストを鞄に仕舞ったりしている数人が残るのみだ。
重点指導講習の開始時間まで、月は席についたままぼんやりと窓の外を眺めている。
ふたまわりほど小さい教室に移動しなければならないが、いつもなるべく最後に入室するようにしていた。
この15分の休憩時間を利用してコンビニに走り、軽食を取る生徒もいるので、
下手に早く行くと講師である奈南河と2人きりになってしまう。
開始時刻まであと2分を切ったころ、ようやく重い腰をあげる。
「重点 英語α」と書かれた入り口に近づいた時、嫌な予感がした。
中が静まり返っている。
もともと月を含めて生徒が4人のクラスだが、教室内の気配は簡単に外に漏れるようになっている。
2方向の壁がパーテーションボードで、ボードの上端と天井の間に10センチほど空間が設けてあるのだ。
ゆっくりドアを開け中を伺う。
奈南河だけが、そこにはいた。
入り口で硬直している月の肩を抱き、個人教室でそうするように奈南河は後ろ手でドアを閉めた。
「3人からそれぞれ欠席の連絡があったよ。」
ドアのすぐ内側で、奈南河は月を壁に追い詰め、掌で頬を押さえつけてキスをした。
口中をかき回すように、音を立てて舌を絡ませてくる。
月の両手が必死に奈南河の胸板を突き、その力強い拘束を振りほどく。
「やめて…ください!ここのドア、鍵が無いんです!」
押し殺した声で月が訴える。
「知ってる。」
再び唇をふさがれ、舌が強引に押し入ってくる。両手首を掴まれ、体ごと壁に押し付けられた。
声を上げれば、暴れて音を立てれば、あっというまに人に気付かれてしまう。
目を瞑り、身を硬くして耐えた。
口付けしたまま、奈南河の手が、月の左手をスーツの内ポケットに導く。
弾力のある、吸い付くような感触の何かが指先に触れた。
驚いて引っ込めようとする手がさらに強く掴まれ、かまわず再び触らせられる。
「何か、わかる?握ってごらん。」
掌に押し付けられたそれを恐る恐る指で包み込む。大きさは玉子より一回り小さい。表面に凹凸がある。
玉子の端が一旦細くなり、そこからまた拡がっている。
困惑した表情が、一瞬で怯えに替わった。奈南河を凝視する。喉が引き攣って声が出ない。
「わかったみたいだね。」
脇の下を冷や汗が一筋つうと流れる。
手の中のそれを奈南河が奪い取り、物も言わずにいきなり月の口にあてがった。
反射的に顔を背けるが、奈南河の手はどこまでもついてくる。
「よく唾液で塗らしておかないと、辛いのは月君だよ。」
それでも逃れようと体を捩るが、奈南河は片手で月の顎を掴み、有無を言わせず口中に押し込もうとする。
両手が自由になった。夢中で振り払うと、それは教室の壁にあたって床に転がる。
突然、顎を掴まれた手によって月は床に叩きつけられた。
その場にへたりこみ、目を涙で潤ませながらも、
非難するように上目遣いで奈南河を見上げる。
月の精一杯の抵抗だった。
じっと見下ろしている奈南河の目つきが変わっている。
「わかった。辛い方がいいのか。」
声の調子も豹変していた。
「壁に手をついて立て。」
乱暴に月のベルトをはずし、下着ごと膝までズボンを下ろし、下半身をむき出しにする。
壁に手をついて立っている月は、その動きに翻弄され大きくよろめく。
「お前の望み通りにしてやる。泣くなよ。」
乾いたままの道具を、何の準備も施されていない後孔に強引に埋め込んでいく。
無理やり押し開かれる痛みと、体内に異物が侵入する感触のおぞましさに鳥肌が立つ。
わざと一番太いところで止め、ゆっくりと左右に捻る。道具の表面の凹凸が襞を巻き込み、引き攣れる。
全身を小刻みに震わせながら、月は喉元にこみ上げる悲鳴をひとつひとつ噛み殺していく。
本体部分が月の中にこじ入れられた。
一旦くびれてまた拡がっている、本来中には入らない部分に指を掛け、回転を加えながらさらに深く押し込む。
道具の先端部分に内臓をかきまわされ、下腹を圧迫痛が襲う。
月は血が滲むほどきつく下唇を噛み、目の前の壁を睨みつけている。
壁のすぐ向こう側に人の気配がある。声は出せない。
従順でしおらしくしている時、奈南河は月に対してあくまでも辛抱強く穏やかに接する。
少しでも反抗的な態度を取ったり、度のすぎた拒絶を見せたりすると、とたんに人が変わったようになった。
怯えた月が泣きながら許しを請い、要求されるすべての行為を無条件で受け入れるまで、力ずくで捻じ伏せにかかるのだ。
道具の隙間から奈南河の指がずるりと差し込まれる。
腰を引こうとする動きは、性器を掴まれ止められた。
指は内壁をさぐるようにぬめっている。
「っ…!」
月が突然、感電したように跳ねた。
冷たく強張っていた奈南河の表情に、今は薄笑いが浮かんでいる。
「見つけた。月の弱いところ。」
そこを中心に円を描くように、執拗に指をくねらせる。
道具をそこに押し付ける。
指がもう一本増やされ、2本の指がそこを挟むように弄ぶ。
月の呼吸が少しずつ荒くなり、やがてそれが喘ぎに変わる。
奈南河の愛撫に、屈した。
もしもキスで口をふさがれていなかったら、嬌声をあげてしまっていただろう。
気付けば奈南河に縋りついていた。
全身を駆け回る快感の波を余さず享受しようと、夢中で体内の指の動きを追跡し、それに合わせるような仕草までした。
そのすべてを奈南河が見ている。わかっていても、抑え切れなかった。
頭の隅に追いやられた理性が、くやし涙となって目に溜まっていく。
奈南河にしがみついてすら立っていられなくなった月は、胸から上を机にうつ伏せにされた。
「何故泣く?月のはこんなふうに悦んで、大きく、硬くなってるのに。」
奈南河の左手が月の前をさする。
今の性器の状態を月に知らしめるかのように、先端から根元、表から裏まで何度も行き来する。
視界が一層、滲む。涙が一粒零れ落ちた。
月の中を責める指が、ねっとりと動き続けている。
「月は、酷いことされてる時や、だれかに聞かれてるかもしれないと思う時、余計に感じるの?」
一旦零れ落ちると、止まらない。後から後から涙が溢れ出し、机の上に小さな水溜りができる。
「そういうのが好きなんだね。凄く、いやらしい…」
奈南河の一言、一言が、月の最後の気力を無理やり剥ぎ取っていく。
呼吸が浅く早くなって来たころあいを見計らって、机の上の月の体は仰向けにひっくり返された。
奈南河が月を口に含む。
巧みに吸い上げ、舌を使う。
後孔の道具が抜けそうになるまで引張り出され、また全体が埋まるほど奥まで突っ込まれる。何度も、何度も。
月は口を大きく開け、音の無い悲鳴をあげ続けていた。
いく。
いってしまう。
こんなことをされてるのに。
こんなに、嫌なのに。
また一筋、涙が頬を流れた。
月が吐き出したものを受け止めた奈南河は、それを月に口移しで流し込む。
髪や服が汚れることを恐れた月は、その青臭い自らの体液をすべて飲み込んだ。
月に埋め込んだ道具を抜き去って、奈南河が教室をでたあと、貧血を起こした月は長いこと机に突っ伏していた。
頭が脈打つように痛み、じんじんと耳鳴りがする。
疲れきり、長時間泳いだ後のように体が重い。
喉に精が粘つき、呼吸のたびに絡んで摩擦音を出す。
先ほど流し込まれたものを拒否するように、胃がぎりぎりと痛む。
吐き気がこみ上げてくる理由は他にもあった。
『月は、酷いことされてる時や、だれかに聞かれてるかもしれないと思う時、余計に感じるの?』
『そういうのが好きなんだね。凄く、いやらしい…』
2度と聞きたくない言葉が、頭の中で容赦なく繰り返される。
快楽にまったくと言っていいほど抗うことができず、いとも簡単に陥落した。
そのことが月を叩きのめしていた。
メールの着信音が流れる。
突っ伏したまま、のろのろと鞄のポケットにある携帯電話を手探りで取り出す。
頬を机につけたまま、液晶画面の本文表示を見て、自嘲するように笑った。
そして長い長いため息をつき、再度突っ伏した。
− 明日補講 朝10:00 zero −
END
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