「今回ばかりはやられましたよ。本当に。」
まだ幼さの残る顔立ちの青年が、こめかみにかかる巻き毛を指先でもてあそびながら残忍に微笑んだ。
「われわれは明日にもあなたをSPK本部へ連行します。
キラ容疑の証拠固めに時間がかかったとしても、
あなたが一時的とはいえマフィアと行動を共にしたことは事実だ。
そちらの容疑で勾留を続けることができる。」
月はまっすぐに青年−二アを見据えている。
月の左右の手首はバンザイより少し開いた状態で吊るされ、
左右の足首も同じように床に拘束されていた。つま先がわずかに触れる程度に。
この体勢のまま数時間が経過していた。
確保の際の銃撃により月は左腕を負傷している。その腕で体重を支えているのだ。
両手先は鬱血し、既に感覚は無い。
「現時点でメ口達がノートを持っている気配はありません。
それどころか、彼らはもはや組織としての体裁さえなしていない。
指揮系統を整えるだけで数日、いや十数日はかかるでしょう。
メ口も今頃あなたに利用されたことに気付いて、
地団太を踏んでくやしがっているはずです。
いや、われわれの一斉突入のタイミングすら、
あなたの計算通りであったと言わざるをえません。
利用されたのはこちらも同じだ。いまやノートの所在に関する情報はすべて失われた。
あなたの完全勝利だ。」
それを聞いた月は一瞬、薄笑いを浮かべた。そしてかすれた声が口をついて出た。
「りュ−クのヤツ、うまくやったな…」
日本語をほぼ不自由なく操る二アだが、さすがにこのつぶやきまでは聞き取れない。
続く言葉を待つために、反射的に月の口元へと顔を寄せる。
「…っ」
二アはすばやく後に飛び退った。が遅かった。
月の放った唾が頬にべったりと貼り付いている。
二アの瞳に一瞬、驚きと怒りの色が浮かび、しかしすぐにそれは消えた。
大き目のシャツの袖口で何事も無かったようにふき取る。
そして月に再び歩み寄る。
巻き毛に触れていた右手を月へと伸ばす。
その指がゆっくりと左腕の銃創に巻かれた包帯の下に差し込まれた。
「ああ…あっ! うっ、う、、ぐ…」
月の端正な顔が歪む。全身が電流が走ったかのように引き攣り、よじれた。
かろうじて悲鳴は抑えたものの、食いしばった口からうめき声が漏れる。
二アの指から逃れようと更にからだを捻るが、かなわない。
がらんとした地下室にガシャンガシャンと鎖の音がむなしく響いた。
「今回の特別捜査では街の情報屋にもかなり働いてもらったんです。
そういうわけで、昨日彼らに契約報酬の上乗せを申し出ましてね。」
顔色も変えずに、二アは指先に力を込める。
月がのけぞり、鎖と滑車が一層軋んで耳障りな音を立てた。
「上乗せ報酬は、あなたを、陵辱する権利」
傷口に手をかけたまま、二アは片手で携帯電話を取り出し、操作した。
液晶が光り、通話中となる。
その間も月は懸命に悲鳴をこらえ続ける。こめかみから汗が一筋、流れて落ちた。
もともと簡単な止血処置しか施されていない。
再びの出血が、緩んだ包帯を紅に染めてゆく。
「この傷が致命傷であればよかったのに、と思わせてあげますよ。
…私の申し出を喜んで受けるそうです。」
二アはぱたんと携帯を閉じ、次いでやっと月の傷を解放した。
耐えている間中、ずっと歯を食いしばり呼吸を止めていた月は
白い喉をそらせ、喘ぐように荒い息をついている。
「情報屋連中はこちらに向かっています。少し準備をしておきましょうか。」
月の胸元を、血のついた二アのしなやかな指先がゆっくりとなぞり始めた。
途切れ途切れの紅の軌跡が下半身へと少しずつ伸びていく。
嫌悪感に、月は体を強張らせた。
「わざとらしいですね。今までさんざん抱かれてきたくせに。」
二アは軽蔑を込めて鼻でわらう。
「どんなふうにLの気を引いたんですか?」
月はうっすらと目を開け、二アに視線を投げる。
「Lと、したんでしょ?
そうしてゲームを有利に進め、Lを翻弄し、始末した。
目的のために自らの体さえも使う。本当に手段を選ばない人だ。
自分の容姿の魅力を知り尽くして最大限に利用する。
ある意味、見上げたものですよ。どこで覚えたんでしょうね。
あなたの毒牙にかかって葬り去られた犠牲者がいったいどれくらいいるのか見当もつきません。」
月は、否定も肯定もせず、再び目をそらせてつぶやく。
「…下衆だな…お前は…」
「あなたのような淫乱で冷徹な死神よりはずっとましだ。
しかし今は褒め言葉と受け取っておきます。」
到着の連絡が二アの携帯に入り、入室を許可された男達が扉を開けて入ってきた。
「お待ちかねのお客様方ですよ。今夜一晩、可愛がってもらいなさい。」
男たちによく顔が見えるように、二アは月の顎を指先で押し上げた。
滑車が勢いよく回り、鎖がジャラジャラと弛む。
膝を付いて前のめりに倒れかけた月をすばやく男の1人が抱きとめ、そのまま首と頭を押さえこんだ。
二アは別の男に、月を後ろ手に縛るよう命じた。
両手首をそれぞれ捩じり上げ反対側の上腕に固定する。
その後、上腕同士を背中の中心にむけて引き絞ると、両肩の関節が音を立てて軋んだ。
さらに左腕の銃創にロープが重なり、傷口にかかる負荷が月を責め苛む。
これだけで充分拷問となりえる拘束である。
二アが男達を促した。
「順番が決まったらどうぞ。ご自由に。」
1人目の男がイラついたように月の頬を張った。
「力を抜けよ。何度も言わせるな。」
あてがわれていた先端がずるりと引き抜かれ、唇をかみ締めていた月は肩で息をつく。
「そんなんじゃ入らねぇったら。おい、聞いてるのか!?」
男は二アを振り返り、困惑した表情で訴えた。
「なぁ大将、俺達は『誰とでも寝る売女同然だ、
多少乱暴でもかまわない、存分に抱いてくれ』ってことで呼ばれたはずだ。
ところがどうだ、こいつはまるっきりシロウトじゃねぇか。
こう無闇に締め付けられちゃ、気になっちまってちっともよくねぇ。
疲れるぜ。話が違う。」
「人種が違いますからね。ちょっと辛いかもしれません。」
「いや、サイズとかそういうんじゃねえんだ。馴らされてないってことさ。
前は知らんが、ここ何年かは使ってねぇな。」
へぇ、そうなんだ、と意外そうな表情をして、二アは面倒そうに続ける。
「入らなきゃ、入るようにすればいいですよ。」
「ディルドでもぶち込んで丸1日置いておきゃいい具合になるんだがな。」
「無理ですね。明日には移送ですし。もっと簡単な方法でいいんじゃないですか?」
二アは空中でつい、と人差し指をすばやく動かしてみせる。
男はニヤついて言った。
「ひどいな大将。確かに刑務所なんかじゃワリとポピュラーなやり方だよ。
…ドラッグ打ってやらないんですかい?正気じゃ気の毒だ。」
「必要ないでしょう。腕の応急手当ても麻酔無しでやりましたから。
やけに紳士ですね今日は。惚れましたか?」
男は肩をすくめ、じゃ、やらせてもらうよと返事をし、
脱ぎ捨てた上着のポケットから小さな携帯用ナイフを取り出した。
続いて、月の腰を持ち上げ、自分の膝の上にうつぶせに乗せ、足を開かせる。
「綺麗な兄ちゃん、聞いたとおりだ。
どのみちほっといても自然に裂けちまう。勝手に切れた傷よりこのほうが治りは早いぜ。
いいな、絶対動くなよ。」
ようやく意図を察した月は怯えて、体を縮め後ずさりした。
「さわるなっ!はなせっ い…いやだ!やめ…いやだぁっ!!」
「しっかり押さえてろ。」
体格のいい男達が4人掛かりで、月を床に押さえつけようとするが、
華奢な体のどこにこれほどの体力が残っていたのか、絶叫しながら全身をくねらせ続ける。
うるさい、と月の口は猿轡で塞がれた。
男の左手の指先が、月の後孔に押し込まれる。
ビクンと反応し、恐怖に全身が硬直する。
指2本でギチギチじゃねえかと舌打ちしながら、無理やりこじ開け、ナイフをあてる。
すぐ横で足を押さえていた男が、さすがに顔を背けた。
「っーーーーーーーーー!!!」
猿轡の下から押しつぶされた声にならない叫びが漏れ、
痙攣するような呼吸とともに、涙が溢れる。
身動きできないように、男達にのしかかられた月の全身から汗が噴き出す。
2度3度とナイフが入れられ、湧き出た血が股間を伝う。
仰向けに寝かされ、ローションを注ぎ込まれ、再び太いモノがあてがわれた。
首をいっぱいに反らせ、目を見開いて、苦痛を振り払おうと暴れる月に、
覆いかぶさるようにしてゆっくりと体重をかけ、埋め込んでいく。
「うん、こんなもんだろう。上出来だ。じゃ、兄ちゃん、そろそろ行くぜ。」
月の両足を肩に担ぐと、男は勢いよく腰を叩きつけ始めた。
赤く染まったローションがはじけて飛び散り、口を開けた切り傷が無理矢理捲り上げられる。
出し入れするたびに、男のモノに血が塗り重ねられていく。紅い雫がいくつも床に落ちた。
幕開けを見届け、二アは1階の執務室へあがった。
デスクに乱雑に広げたままになっていた資料や書類を揃え、
PCの電源をONにし、仕事を再開した。
今回の失態の報告がすでにSPKのデータベースにあがっている。
ノートの所在を表す欄が「missing」に変わっていた。
唇をきゅっと噛みしめ、巻き毛を弄る指先にも力が入る。
Lを、そしてメ口や私さえも出し抜き、駆け引きに勝利した月。
本部ではキラ容疑者としての尋問が待っている。
これまでの犯行、ノートの行方について、必ず喋らされる。
人体の許容量を超えた自白剤の使用は、月を廃人にするだろう。
そして、最終的にでる判決は間違いなく死刑だ。
それはつまり、月に勝利する機会を永遠に失うということである。
二アは深くため息をつき、頬杖をついて額に手をやった。
これで、終演か。
負けたまま、終るのか。
1度精を吐き出した者が、しばしの後、再度月を襲う。
さらに、そこへ遅れて来た者達が加わる。
何回犯されたのだろう。
絶え間なく挿し貫かれていることだけは確かだ。
限界を超えた痛みに失神し、またその痛みで覚醒する。もう、声も出ない。
長時間次から次へと嬲られ続け、猿轡を食いしばる力さえもすでに無いことを見定めると、
順番を待ちきれない男達が先を争って月の口を蹂躙する。
二アが指示したとおり、月の体は、徹底的に性欲処理具として扱われていた。
仰向けの男は下腹に月を座らせ、その腰を下から激しく突き上げている。
細い体が跳ねるたびに、咥えさせられた別の男のモノが、喉を突き破るほどに深く抉る。
嘔吐反射に襲われ、差し込まれた異物を排除しようと
弱々しく抵抗する月の頭は、男の両の掌によって強く押さえつけられている。
息ができない。視界がぼやけ、気が遠くなる。
脳が発した呼吸の号令と同時に、生暖かい体液が喉の奥にあふれた。
激しくむせ、気管をふさいだ白濁液が鼻まで逆流する。
体を二つ折りにして咳き込んでいる月にかまわず、
新たに交代した男が髪を掴み、顔をあげさせ、屹立したモノを口中にねじ込む。
下半身を引き裂く激痛と、息継ぎさえ満足にできない苦しさのあまり、
無意識に歯を立てては、繰り返し罵倒され殴られた。
ロープが食い込んだ左腕の銃創は腫れ上がり、滲み出た血が肘から滴る。
徐々に深く裂けつつある後孔の切創からの出血と、
奥に流し込まれた幾人もの体液が、月をかかえる男の腹を汚す。
宵の口から始まった狂宴は、日付が変わる頃まで続いた。
地下室は再び静寂に包まれている。
二アは報告のための書類を手にして、陵辱の始まる前と同じように鎖に吊るされている月に目をやった。
がっくりと首を垂れ、月は身じろぎもしない。
血と汗と男達の体液で、前髪は額や頬にべっとりと貼りつき、表情を伺うことはできない。
書類を伏せ、ぼろきれのような月を物憂げに見つめる。
夜が明ければ、この美しい手負いの獲物もこの手から離れてしまう。
再び書類を持ち上げ、何度も読もうとはするが、まるで頭に入らない。
書類を床に投げ捨てた。静かな地下室に、乾いた音が踊った。
月に歩み寄り、その顎に手を当ててうつむいた顔をささえ、見つめる。
口付けた。
月は抵抗しなかった。
むしろ、口付けを受け入れたようにも思えた。
二アは蝶を捕まえるかのような仕草で、壊れ物を扱うようにそっと月の両頬に触れる。
再び、口付けた。半開きの唇を押し開き、舌を月のやわらかい口中に這わせた。
月は、ほとんど失神した状態でありながら、たしかにその行為に応える。
二アが三たび口付けようとしたとき、
ふいに、月の唇がかすかに震え、途切れ途切れの音を紡いだ。
「…りゅ…う… ざ… き…」
その刹那、二アの顔が、おもちゃを取り上げられた幼い子供のように歪んだ。
聞き覚えのある、Lの偽名。
熱い感情の塊が喉元を塞ぐ。
両手を月の乱れた髪に伸ばし、爪先立ちで体を預ける。
2人の頬と頬が触れあう。
二アはほとんど縋るようにして月を抱きしめた。
誰にも渡さない。私だけの月。
あなたの精神と肉体のすみずみにまで、私の存在を刻みつけやる。
Lの痕跡を力ずくで剥ぎ取って、
あなたの心さえも、いつか私のものにして見せる。
私なしではいられないように。
私だけにねだるように。私だけを誘うように。
私だけがあなたのすべてであるように。
それこそが、私の勝利。
翌日、迎えの護送車が到着した時、二アと月は忽然と姿を消していた。
end