月は歯噛みした。ここはどこだ…。
男に話しかけられ、無視して通り過ぎようとしたところを背後から羽交い絞めされ…その後は意識がない。
「ライト君、すぐ済みますよ」
目の下に大きなクマがあるその青年は淡々とそう言った。
漆黒の大きな瞳は何も映してはおらず、それが子供心にぞくりと寒いものが背筋を這い上がる気がした。
きょろきょろと辺りを見回すと、部屋の隅にランドセルが置いてある。あれを持って早く逃げなければ…!
これはいわゆる「誘拐」というやつだ。父から不審な人物に絶対についていかないよう教えられていた月。
もしついていけば…命はないんだぞと少々大袈裟に言われていただけに、普段は物おじしない性格でもやはり怖いものは怖い。
「…ぼくを、殺すのか…?」
恐る恐る尋ねると、男はあっさり首を横に振った。
「いいえ。私は殺生を好みません。ただ人と違う性癖があるみたいです」
申し訳ありません、そう言いぺこりと頭を下げる男。いったい何なんだこいつは…。
よれよれのズボンにシャツ、裸足の指先をもじもじと動かせている。髪もとても手入れされてるようには見えないし、時折爪をかりかり噛む姿は何とも奇妙だ。
せいへきーー、幼い月にはそれを漢字に変換することも、意味を考えることも出来なかった。
確かに小三の子供にしては十分過ぎる知識を備えた天才児だったが、最近やりはじめた中学一年の教科書にもせいへきという言葉は載っていない。
結局その意味がわからぬまま、とにかく自分は殺されないかもしれないという安堵だけが月を包み込んでいたのだったー。
この後、自分の身に何が起きるかも知らずに。

「さて月君、はじめましょう」
「え?何を…」
「いずれ君にも分かるでしょう。今は知らなくてもいいことです」
男は月に近寄り、その小さな手を握った。思わずびくっと後ずさる月に構うことなく男の手が、腕が月の膝裏に延びて気付けば体ごと抱えあげられてしまう。
どっかで読んだお姫様みたいな体勢になってしまい、月は大層慌てた。男の意図が全く分からないのだ。
どういうこと…!?
新たな不安が募り始めた。
男は部屋の中央にあるセミダブルのベッドに月を優しく寝かせ、すぐにその上に覆い被さる。
「なっ…何だよ!お前いったい…」
「強気ですね月君は…そういう子は好きです」
言うや否や、男は顔をおもむろに近付けてくる。熱い息がかかり、その嫌悪感に月が眉間を寄せると男は口元だけを僅かに上げ、にやりと笑った。
「怖いですか?」
熱い息がまたかかる。
「…怖くなん…か…!それよりどけっ……ンンッ!」
月が口を開いた瞬間、男の舌がいきなり口腔内に侵入してきた。
あまりに突然で、まして子供の月には抵抗出来るはずもなく、
なすがまま男の舌が自分の口を犯していく。
「んんっ…んんうぅっ!」
た、たすけて!だれか!
叫ぼうとする度に舌を絡めとられ、トロトロと男の唾液を流しこまれる。思わずそれを飲み込んでしまい、月の目尻にはうっすら光るものがあった。

「んううっ…んーっんーっ」
くそっ…くそうっ…!悔しい…!
男の舌が自由に口を這いまわるのを泊められず、そんな無力な自分が心底悔しい。
せめて出来ることは…絶対に泣かない、それだけだ。男はどんな時でも泣いちゃいけないと父から常に言われてきた。
月は必死に涙をこらえ、己の恐怖と戦っていた。
ナメクジが這っているような感覚は気持悪いとしかいいようがなく、幼い月にはまだそれの快感はわからなかった。
男は十分に月の口を犯したのち、漸く唇を離した。唾液が糸をひき、月の顎に垂れたがそれを拭う余裕は月にはない。
今は涙をこらえるだけで精一杯だった。
「…うっ…うう…」
「申し訳ありません。苦しかったですか?しかし君の口の中はとても気持が良かったです」
「も、もう…気がすんだなら…僕を家に」
「まだこれからです。月君も気持ちよくなれると思います。…その確率90…いいや100%…」
よく分からないが、どうやらまだ何かを自分はされるらしいーー。
月が無意識にかぶりを振ると、その愛らしい仕草に男は目を少しばかり細めた。あやすように頭を撫でてやり、
「大丈夫ですよ。保証しますから」
そう言って再び月に口づけた。

「っ…竜崎…いったいどういうつもりだ…!」
乱れたワイシャツから見え隠れしる桃色の胸の突起が竜崎を誘っているかのようだった。
月は靴下以外何も身に付けない下半身を隠すように足を閉じるが、恥じらうその姿はいっそう雄の劣情をあおるだけだ。
「月君と仲良くしたいと思いましてね。すみません、手錠…」
片方は竜崎の手首に巻かれていたはずの手錠が今は月の両手首を戒めている。まさかこの竜崎が武道に通じていたなどとは、知る由もなかったーー。
簡単に捻りあげられ、手錠から伸びた鎖をベッドに幾重にも巻かれ、打開策など見付からない。
竜崎が側に近寄る。月は思わず肩をびくっと震えさせ、不意に、幼い日の忌々しい記憶が頭にフラッシュバックしたのだった。
「……あ……」
目の下がクマで…髪がボサボサの…口調がやけに丁寧で…
「……月君……?」
そう…やや低めの声で自分の名を囁くあの男……。
「…お…お前、まさか…!」
「やっと思い出したんですか?私は月君をはじめから知ってました。月君は…」
「や、やめろ!来るな!」
「月君はまだ幼い子供でしたね」
「来るな!来るっ……ンーーっ!」
あの時と同じように強引なキスだった。舌が侵入し、中を無尽に這いまわる。
「んっ、んうう…」
違うのは月が多感な18歳の少年であるということ。性的な快感を既に知った体は以前とは違う感情をもたらしていた。
「ふぅっ、んう、ンーー!」
竜崎の動きは巧みだった。舌先を絡めては吸い上げ、中を舐め回し、時折唇を甘く噛む。あらがえない快感がまさに今、大口を開いて月を飲み込もうとしている。
口端からは唾液が溢れ、顎から首筋を伝っていった。

長く激しい洗礼のキス。幼き日の忌々しい出来事を思い出した今、冷静な判断をすることは不可能に近い。
竜崎…やめろ…やめてくれ…!
しかし月の願いは叶わなかった。
やっと解放された時には月は既にぐったりとうなだれており、半ば放心状態にも見える。
伏し目がちの瞳にかかる長い睫が綺麗だと竜崎は思った。
「泣かないでください。またあの時のように月君と楽しみたいだけですから」
泣いてなんかーー!うなだれたまま、きっと目だけを竜崎の方に上向け睨みつける。
しかし同時に、またこの男にあんな恥ずかしい真似をさせられるのかという恐怖心が月を襲う。
「月君は賢いですから、恐らくあの時何をしたのか正確に記憶しているんじゃないでしょうか?」
「…知らない…離せ…」
「例えば、月君のここをこうやって」
ワイシャツをはだけ、露出した胸元をさすると月は僅かに身をこわばらせる。
「……っ」
「君ぐらいの年頃は一番性欲が盛んですから…我慢しなくていいですよ」
さすっていた手を突起に持っていき、手の平で転がしてやる。
途端、月の体は大きく跳ねた。
「くっ……!」
きりりと唇を噛みしめ、出来る限り声を抑える月。しかし久しぶりに他人に触れられる心地良さと、今の異常なシチュエーションが更に月を敏感にさせるのだった。

竜崎の指が月の両乳首を摘み、ぐりぐりと刺激する。
「うっ……ん…」
はあはあ荒い息と共にややかすれた声がうるんだ唇から漏れ出す。自分の弱いそこを摘まれ、強い快感と痛みが体中を駆け巡った。
「りゅ…ざき…やめろっ…はあっ…」
「月君の体は随分綺麗なんですね…感度も高くて驚きました」
先端を押し潰したり、周囲をくすぐってみたり。月は最早、口での抵抗が精一杯の状態だった。
「んんっ…、あ…、ああ…」
段々エスカレートする行為に月の声も大きくなる。この男は…竜崎は…限度ってやつを知らないらしい。
強すぎる快感に支配され、月の理性はぎりぎりのところで繋ぎとめられていた。これ以上何かされたらみっともない奇声を上げかねない。
それだけは…嫌だ…!
「あの時の月君は…ここをこうして触れても脅えるばかりでした」
「んッ…」
執拗に乳首ばかりをいじめる竜崎。耳元でそう囁かれ、顔をそらす。
「それに…そう、ここを舐めても…」
ちらっと月の顔を見遣り舌をチロチロと出す行動に、何を意味するのか理解した月は頭を左右に振りかぶった。
「や、やめてくれ…!竜崎…!」
「より気持ちよくなれると思います…我慢しててください」
言いしな顔を胸元に近付けた竜崎は舌先を出し、ぺろりとその朱色に染まった乳首を舐めたのだった。
「ああっーー!」
今度は唇で強く吸われ、最早恥も外聞もなく暴れ始めた月。
舌のざらざらした感触が敏感なそこに吸い付くようにうごめくのが溜らなく、下半身が熱を帯びだす。
「や、やめ、ああぁっ!」
これでもかという程に情けない姿をこの男に二度までも晒してしまった。
容赦なく快感の波は押しよせ、見えない何かにがんじからめにされたような気分だった。もう逃げられない…。
月はただ叫ぶことしか出来なかった。


「…痛っ…!」
男の指先が僅かに月の秘部にめりこんだ。下半身を隠すものは何もなく、月は男の膝に座り両足を大きく開脚させられている。
体の大きさが一回りも二回りも違うため、月の体はすっぽりと男の体にはまっていた。
背後から首筋を舐められながら、指先を秘部に少しづつ押し込まれていく。
そこは本来、排泄用の穴である。まさかそんな場所に指を押し込まれるとは思わなかったので、月は更に動揺していた。
「いっ……」
「痛いかもしれませんが慣らさないと入らないので…月君、我慢してください」
平然と言い放つ男。
月はともすれば裂けてしまいそうな痛みに必死に耐えていた。
指先が中に入っていくのが下半身から直に伝わり気持悪いが、
先程まで胸元を執拗にいじくり回されたあの時のむず痒い奇妙な感覚と違って単純に「痛い」だけの方が、何故だか逆にほっとした。
怖かったのだ。気持悪いようなくすぐったいような…もしかしたら気持いいような…おしっこに行きたくなるようなムズムズした感じが。
それが快感なんだと、十年後には嫌でも気付かされるのだがーー。

「竜…崎…やめろっ…」
昔のことを思い出しながら、月はかぶりを振り叫んだ。
あの時は膝に抱えられていたが、さすがに今の月をそんな風に扱うことは不可能だ。
月は今うつ伏せに寝かされ、猫が間のびするように下半身だけをみっともなく高く上げさせられている。
竜崎の指先がめりこんだ瞬間、十年前とまったく同じ痛みが月を襲った。
「うああっ…!」
乾いたそこに指がめり込むのは苦痛でしかない。
月は顔をシーツにこすりつけ、痛みから逃れるように足を動かし腰を動かす。
「やはり靴下だけを残して正解でした。綺麗ですよ月君」
「っ…この…変態が…!」
「…それはミサさんにも言われました…ではそうなのかもしれませんね」

容赦なく指が奥に侵入し、しまいには根元まで押し込んだ。月の白く柔らかな双尻が僅かに震え、括約筋が指をきゅっと締めあげる。
男としてあまりに恥ずかしい体勢で指をくわえさせられたまま、どうにもすることが出来ないなんて…。
苦痛と怒りにうち震える月をよそに、突然竜崎のもう片方の手が背中に延びた。
ワイシャツをめくりあげ、脇腹をさすり始める。
「んっ……!」
思わずよじらせた体は、結果的に更に後ろの指の侵入を許した。しかし脇腹をさする手は止めることなく、更には胸元へと伸び再び小さな突起をつまむ。
「ああっ!はあっ、よせっ…!」
「月君も変態だったんですね。随分気持よさそうですよ…ここからこんなものが溢れてるのは何故ですか?」
「あッ…」
胸元から下りて、腹部を通り、竜崎の手は月の一番大切な部分へと這わされた。
確かに既に固く立ち上がった分身の先からは淫らに涎が溢れている。
それをそっと包みこむようにやんわりとだけ触れられ、それだけでぶるっと全身があわ立った。
「小さな月君はここもまだ幼く…」
そう言いながら先端を人指し指でつつく。
「あああっ!」
「何も知らない初な子供でした…今は違うみたいですね」
感慨深げに呟く竜崎。もうこれ以上何も言わないで欲しい。耳を塞ぎたくなるような台詞をわざとらしく囁かれ、聴覚までも凌辱されている気分だ。





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