しんしんと冷えていく。
窓の外の風景を見ると、
黒い背景に白いものがちらりちらりと混じっていた。
「雪ですね。」
向かい側に座っている男が言った。
僕とこの男、流河は向かい合ってこたつに入っている。
彼は猫のように背を丸めて、布団に身を包んでいる。
僕も同じような格好だ。
何故大の男が二人きりでこたつに噛り付いているのか。それには訳が有る。
真冬だというのに空調が上手く効いていないのか何なんだかで、
部屋の中が異様に寒いのだ。
僕は吹き込んできた冷気に身を震わせた。
「冷えるわけだ・・・。流河、エアコン見て来いよ。やっぱり何か変だよ」
と、よりこたつに深く潜り込みながら言う。
「どうして私が。位置的に君の方が近いです。君が行くべきです」
流河も言いながら同じように潜り込む。
「いやおまえの方が近い。それにこたつから出たら冷えちゃうじゃないか」
僕は布団の端を掴んで引っ張った。
「私だって冷えるんですが・・・」
負けじと引っ張りかえす流河。
「流河は大丈夫。あ。でも変温動物は寒さに弱いんだっけ?」
すると流河は、いい加減にしろという雰囲気で面倒そうに言った。
「恒温動物なので問題有りません。
あまり変なことを言わないで欲しいですね・・・」
言い終えると突然、こいつはこたつの中へ潜った。
「・・・な、何やってるんだりゅ・・・うわっ!」
(何だこいつ!!!)
そして、布団の中から上半身を出した。
僕の上にのし掛かって。
「おいっ・・・流河、重い!狭い!」
「君が馬鹿なことばかり言うからです。
−たまにはこういうのも面白いんじゃないですか?」
そんなことを言いながら、流河は僕の服を脱がしに掛かってきた。
「馬鹿はおまえだ、ここで脱いだら寒いだろっ」
僕がそう言うと、こいつはシャツのボタンへかけていた手を止めた。
そうして、その真っ黒な目で少し僕を見つめる。
「・・・。じゃあ、脱がなくても良いですね」
「はっ!?」
(いや、そういう意味じゃないんだけどさ!!)
流河は布団の中へ手を伸ばすと僕のジーンズと下着を器用に降ろした。
そうして中の生温い空気の中に晒したものを玩びはじめる。
「ぅく・・・あっ・・・」
吸い込む空気は冷たいのに、感じる部分は熱い。
「・・・すぐ暖かくなりますよ、これなら」
この男の卑猥な台詞に、かあっと顔に血が上るのが分かった。
「へん・・・たいっ・・・ぁ・・っ、あっ!」
扱くようにその器官をいじられて、あられもない声を上げてしまう。
まるで普段の僕とは別な人格が存在するようだ。
「早く私も暖めてくださいよ。ほら」
流河が、僕の服の襟を開いて、その温度の低い頬を押し付けて来る。
こたつの所為で焼けるように熱いのが、それで緩和されるようだった。
「ん・・・・・ぁあっ・・っ」
ぎゅっと力を込めて、刺激を与えられる。
僕はその男の冷たい手の中へ快楽の液体を吐き出した。
「・・はあっ・・・はぁ・・・っ」
「お疲れ様です」
「この変っ態・・・!」
流河は雑言を投げつける僕の首筋にかまわず口付けをした。
そして、液体に濡れた指をそっと後ろへ這わせてきた。
「−・・・ん!」
ずっ、という感触。
慣れた手付き。
自然と動いてしまう腰。
「今日は・・・よく感じるみたいですね」
「んんんっ・・・っ・・・、」
「やはり新鮮味ですか・・・?」
(だから違うって・・・!!!)
快感でぼんやりと霞んだ頭の中、僕は思った。
「・・・・・・ぁっ・・・」
そのとき、くぷりという感触と共に、身体から指が抜き出されるのが分かった。
喪失感が身体の芯を疼かせる。
代わりに、その部分へ違う物があてがわれた。
「それじゃ、私も・・・」
目の前の真っ黒な瞳を覗き込む僕。
飢えた獣のようなその男。
「ひ・・・・・ぁ」
全く異質な物にずぶずぶと満たされていくのは、僕。
重く狭く圧し掛かる、冷たいのに熱い不思議なその身体。
布団の中の下半身が熱くて苦しくて、
外気の冷たさももう全く気にならなくなっていた。
むしろ、服が汗でべたべたに肌へ張り付いている。
細く小さく息を吐きながら、流河はゆっくりと腰を動かし始めた。
こたつの机の部分が邪魔をして大きくは動けないけれど、
反ってそれで興奮が増しているような気さえした。
「・・・ぁ、あぁっ・・・ぁ」
狭いその部分でこいつが蠢く度に、内壁を引っ掻かれていく。
それが気持ち良くておかしくなりそうだった。
「ん、はぁっ・・・」
「かわいいですね・・・っ。もっと、鳴いてください・・・」
流河は汗で透けて見える僕の胸の突起を、服ごと甘く噛んだ。
それと同時にえぐるように揺れて腰を押し付けて来る。
「うく・・ぁ、・・・あああっ!」
ある一点を見透かした刺激に、身体がびくびくと震えた。
その瞬間。部屋の戸口が開いた。
「いやー、冷えて困っちゃいますね!こんばんは!!
僕美味しそうなもの少し買ってきたの・・・で・・・。あ・・・」
静まり返る部屋の中。
松田さんの絶叫が響いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
僕は目も当てられない状況に意識が遠のいた。そっと掌を瞼の上に置く。
恥ずかしくて死にそうだった。
流河の声が聞こえる。
「あー・・・。松田さん」
「ご、ごめんなさい!!!
っていうか僕、うわわ、どうすれば良いですか?!!!」
「ご飯はそこへ置いておいてください。で」
ちらりと僕は指の隙間から見た。
「はいっ!!!」
気を付けの姿勢で馬鹿正直に返事をする松田さんへ向けられた、その微笑みが。
「・・・帰れ・・・」
一瞬で死神のような形相に変わる様を。
もう一回松田さんの叫びが聞こえた。
今度は悲鳴だった。
ガチャン。ドサッ。バタバタバタ。
その音の後、僕の上へ乗ったままの流河はこんなことを言った。
「さ。続きですね」
(いい加減にしてくれーーーーーーーーーー!!!)
ある冬の夜の話。遊びはまだまだ終わらない模様だった。